レースの白い靴下
koharuさんのブログ『銀のスコップ』を拝見して思い出した。
http://koharu000.hatenablog.com/entry/2013/07/09/221552
私が子供の頃は今よりもっと貧富の差が大きかった気がする。
更に子供だったから、子供の目線での貧富の基準は大人のソレよりもっともっと厳しかった。
家は勿論、服装、持ち物など厳しくチェックされるのだ。
んで、例えボロボロの家に住んでいてもその子の性格が明るくそしてドッジボールがうまいとか鉄棒すげぇとか、そんなプラス評価の材料があったらその子は苛められない。
なのでボロボロの団地に住んで尚且つ性格が暗かった私なんぞは間違いなく選考から漏れ(笑)苛める対象になっていた。
しかしそうは言っても、私を苛めていたのはクラスの一部の男女だったんだけど。
Mさんは、クラス全体から苛められていた女子だった。
苛められる原因は、家がボロボロの長屋だったことや性格も暗かったこと、そして何より彼女の外見だった。
ハーフとかそんなんでは無かったと思う。だけど瞳が少し青かった。多分色素が薄かったとかそんなことだと思うけど。
猫目オンナ、というのがMさんのあだ名だった。
そして、名前が大御所演歌歌手(男)と最後の一文字だけが違うだけっつーことでもからかわれていた。
私はどう思ってたのか・・。
自分を棚に上げて苛めていた記憶は無いが、かと言って同じ苛められ仲間として労わり合う、なんつーことも、また、かばいもしてなかった。
ある日。
何のきっかけでか、そのMさんに『うちにこない?』と誘われたのだ。
他にも友達が来るから、と。
苛められているMさんに友達がいたのか・・とちょっと驚きながらも私は彼女の家に遊びに行った。
他に誰がいたのか全く覚えていない。
あまりよく知らない子たち、という印象。
違うクラスの女子だったのかも知れない。
Mさんが苛められているという事実を知らない、例えば近所に住んでいて小さな頃から一緒に遊んでいる、というような子たちだったのかも。
または、知っていてもソレはソレ、みたいなもんだったのか。
子供界って学校と外とは違う世界であるし。
Mさんの家は青いトタン屋根のボロボロの長屋で、開けっ放しの戸から誰かが寝そべっている足が見えたということだけ覚えている。
誰の足だったのかは分からんけど。多分お母さんか誰かの。
昼寝中だったからか、家の中には入らず近所の空き地で遊んだ。
水遊びでもしたんだか、遊んでいる間は全員が裸足であった。
そして帰る頃になって気がついた。
あれ・・・靴下が・・無い!
小さなレースが足首回りに付けられたおニューの(おニューって初めて書いたけど字にすると変だな^^;)白い靴下である。
それはお出掛け用だったが、いつもと違う子(Mさん)の家に行くということでちょっと特別な気分だったのだろう、こっそりタンスから出して履いて来たのだった。
焦った私は一人でそこら辺を探し回った。
他の子たちは皆、靴下を履き終えている。
ふと見ると黒ずんだ靴下が置いてあった。元は白かったのだが履いているうちに黒ずんだような。
自分のかな・・と思ったのだがよく見ると足首のところにレースの飾りが無い。
やっぱ私んじゃない!私のはどこだ??
どうしたの・・?
途方に暮れて突っ立っている私に誰かが声をかけた。
私の靴下が・・無くなっちゃった・・。
アレじゃないの?と黒ずんだ靴下を指さされて、ううん、違う・・そう言ってふとMさんの足元を見た。
あれ!!?
真っ白い靴下を履いている。そしてレースが付いている・・。
それは、、私のだ・・。
確信した私は、Mさんに『間違えて履いてない?それ、私のだけど・・』と言った。
するとMさんは
『これは私のだよ。私が履いてた靴下だよ。』
と言った。
きっぱりしたその言い方に私はたじろいでしまった。
そして急に自信が無くなった(笑)
いや、自信はある・・あったのだけど・・でも・・あれ、やっぱこの靴下(黒ずみ)私が履いてきたんだっけか・・・・。
今の私だったら、おぃ!しっかりせぃ!と、この時の自分の頭をどついてたかも知れん^^;
結局、まだ皆は遊ぶような雰囲気の中、黒ずんだ靴下を手に持って『・・もう帰るね。』と言った。
『あ、じゃあね~』
その声を背中で聞いた途端に、わーっと私はその場で泣き出してしまった。
『花梨ちゃん、どうしたの!?@@:』
焦って駆け寄ってくる子たちに、私は事情を話した。
それを聞いて戸惑っている子らの、ちょっと離れた所でMさんは、黙ってこっちを見ていた。
何故か、そっからの記憶が無い。
その後どうしたのか、返して貰ったのかそのまま帰ったのか。。それから後日の記憶も^^;
Mさんに対しての全ての記憶がここまでなのだ。
今思う。
自分が貧乏な家に住んでいて苛められていて。
でも自分よりもボロボロの家、自分よりも苛められているMさんを、私は心のどこかで自分の方がマシ、と見下していたのではないだろうか。
真っ白な靴下は、精一杯の見栄で。
でも、その靴下を取られた(・・と思った)途端に黒ずんだ靴下をぶら下げて裸足で帰る自分が惨めになって。
そして、Mさんの回りの友達はやはりMさん側で、私はその場で独りなんだと、それで悲しくなったんだ、と。
自分が心の何処かで見下していたMさんにも負けてしまった、と。
Mさんはどう思ったのだろう。
あの時、何の言い訳もせずただ黙って立って見ていたMさんは。
本当に自分の靴下だと思ったのかも知れないし、それは私の勘違いで本当にMさんの靴下だったのかも知れない。
koharuさんの記事では、お子さんが公園に持って行ったスコップを取られてしまったことが書かれていた。
その、取った子は
『あれはわたしので、パパに買ってもらったんだもん』
・・と。
自分の子供の持ち物だと証明するのは簡単だ。
まあ、その子の親が普通の、と言うか、普通に常識のある人ならば、だけど。
親からほったらかしにされているその子は、どんな気持ちで言ったのか。
そんな、その子の心の背景と、また、自分の子供の気持ち、それをグラグラと揺れる天秤にかけてkoharuさんは悩んでいる。
私も、そのブログを拝見してどうしたらいいのか考えこんでしまった。
そして、それより・・。
自分の子供の為に、やっきになって取り返しに行くこともなく、どうしよう・・とモヤモヤと悩んでいる、そんなkoharuさんの優しい母の心を感じた。
銀のスコップを自分のだと言い張ったその子は、それをずっと覚えているだろうか。
それとももうすっかり忘れてしまうだろうか。
もし覚えていたら、どんな気持ちで思い出すだろうか。
子供時代は、懐かしくて哀しい。
*kinakoさんにトラバ返し*
『なくなった教科書が半年後に戻ってきた件』http://kinako.hatenablog.com/entry/2013/07/11/140345
私の、この『ホワイト・ソックス事件』(何で急にこじゃれたネーミングに!?)の、ちょっとアダルト版です。(この言い方も何ですな^^;)
しかし、あの頃の、暗く黒い渦巻きがぐるぐると心を占めていた私が中学生になったとて、このkinakoさんのような対応がとれただろうか・・。