花梨とうの粒焼き

日々のちょこっとをちょこっと。

別の私が恋をする。

昨日、再読した小説で私は好きだった人と再会した。

 

恋愛小説なんてかれこれ10年ぐらい読んでないんじゃなかろうか。

現実の私は日々の生活でいっぱいいっぱいである。

人様のフィクションの愛や恋バナで胸がいっぱいになる前に、まず腹がいっぱいになるように働かねばならん(笑)

 

しかし。

ブログを巡っていて紹介されていた本が突然読みたくなり、そのまま図書館に走った。

 

小池真理子氏の『倒錯の庭』という短編である。

この方のホラー小説も大好きで最近でもよく読んでいたが、恋愛ものからは久しく遠ざかっていた。

 

田舎で親と造園業を営んでいる26歳の寡黙な青年。

その土地には不釣り合いな都会的な顔立ちと華奢な身体。

そして何処か憂いを含んだ表情。

奥にある暗い何かを覗き込もうとしても無下に跳ね返される冷たい瞳。

何かに飢えつつも全てをそのまま受け入れ同時に全てを諦めている。

冷たい炎を心に持っている、というような。

 

他の作家の本でも同じようなタイプの男性は数いれど、私はこの著者が描く男性が好きである。

繊細な表現を手がかりにこの人はこんな顔だろうこんな声だろうと分かる。

 

その男は[草いきれの匂い]がした、という表現を私はこの方の小説で知った。

まあ。

草いきれの匂いがする男は実際にイルのか、いても現実では単に臭い男なんじゃなかろうかとも思うけど^^;

 

 

小説を、特に恋愛小説を読んでいると、現実の私とはまた別の私が現れ、現実の私とは全くもって正反対なタイプの男性に恋をしたりする。

 

まず。

何を考えてるか分からん男性は苦手である^^;

どんなに端正な顔をしていても。

クールでめったに笑わない、仮に笑っても、ははっと軽く笑うのみ。 爆笑したことが今まであるんすか?てな感じで。

笑顔なのに何処か憂いがあるっちゅーか、寂しげ。

そして、悪く言うとナルシストで自己チュー。

抱きつくと自分の手がもう片方の肘を掴めるぐらい細い身体。

・・・全て苦手なのだ。

ぶっちゃけて言えば、自分より顔が良くて痩せている男性が苦手ってことなのだが。おまけにギャグセンの無い人(笑)

 

けれど、小説の中で私のタイプはガラリと変わる。

この著者の好みなのか^^同じ感じの青年が多い。

または全くオトナな年上の男性か。

んで、この著者の小説の中の男性に恋をしてしまう。

私の中の見知らぬ他人である。 こんな自分知らないよ~^^;

 

 

以下は全くネタばれだけども、まあどなたも読まないだろうから書きますが^^;b

 

この話の中での主人公はその青年より一回りも年上の大学講師だ。

教養もオトナとしての分別もあり、また美人ながらこれからどんどん老いていく女である自分も自覚している。

そして、心に闇を持っている。

同じ匂いがするから、との青年の激しく、また静かな狂気を含んだ[愛]と言う名の蟻地獄。

その穴にもがきつつも徐々に引き摺り込まれてゆく女。

そして終いには狂気を孕んでいるのは、悪魔は、自分なのだと気づく。

・・私が表現すると安い昼メロみたいだが。

 

 

あっさりと排除してしまうのだ。 この青年は。

主人公の女性が嫌悪するもの全てを。

 

ワンマン経営の大学。

別れてくれない別居中の夫。

自分の、若く綺麗ないいなずけまでも。

 

 

そこに青年の憎悪は無い。

ただ、永遠に二人でいる為だけに、庭の雑草でも刈るように淡々と排除してゆく。

山の上の一軒家の、手入れのされた庭の木々や花々を星灯りの下で二人で永遠に眺める為、それだけの為に。

 

 

 

究極のストーカーである。

これ、もし愛情が自分に無くなっちゃったらどうなるんだろ。。

殺される?  しかもその前に共犯じゃん(;;;゜ω゜;;A)

いやいやこんな恐い男、まっぴらごめんだよ!

第一、実際は好みじゃないじゃん。

まあ、それよりもそんなのに好かれるには程遠いオバさんに成り果ててしまったしな。。

 

しかし。

 

また別の私が、この倒錯した甘美な愛に酔っている。

私の為に私が邪魔なものをどんどん排除してくれる、そんな激しく狂気なまでの愛を与えてくれる相手を、心のどこかで渇望している。

でも実は追いかけても追いかけても彼の心には追いつけないのだ。

一緒にいるのに一緒にいる感じがしない。

永遠に満たされることが無いもどかしさ。

常に不安で安心で、幸福で不幸だ。

別にいいじゃん。 そんな愛があってもさ。

 

現実には全くありえない、出会うことのない人を、現実でも追い求めそうになる。

 

 

 よくある恋愛不倫ものの、説教臭いドラマのような終わり方はしない。

アリバイが崩され、捕まり、あ~いい夢見たけどやっぱ人を殺しちゃイカンよね。やっぱり不倫ってダメよね。

なんて終わり方はしない。

 

だから。

読み終わっても現実と妄想の間を彷徨っていられる。

現実の私と妄想の私の境が曖昧になっていられる。

 

そういえば、この著者で似たような話がもう一つあったよな。

 

私はその曖昧さをまだ楽しんでいたくて、図書館でもう一冊予約をした。

 

 

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ところで。

doconokoさんが、私の拙ブログを読み私が上手く伝えられなかった言葉を掬い取って更に掘り下げた考察を書いて下さったデス^^b

『草食の恐怖』

http://doconoko.hateblo.jp/entry/2013/01/29/154958

読んでいないのによくぞそこまで!・・と大いに感心致した次第ですよ。

 

草いきれの男に唯一感じる心の動きが、恋や愛であることにも、私はとてつもない恐怖を感じてやまない。

・・と、 doconokoさんは書かれている。

そうなのだ。

ちょっと詳しく内容を書いてしまうと。

男の許嫁(いいなずけってこう書くのか、と初めて知った^^;)である若く魅力的な女の子に嫉妬をし、そんな自分を年甲斐もなくみっともないと思いながらもどうしようもなくなってしまい、女は叫ぶのだ。

「もう帰って!」と。

こんな中年女を慰めてくれなくてももういいから、と。

取り乱す女を突然男は抱きすくめる。

「あなたは僕の分身です。僕があなたから離れられるわけがない」と。

 

唯一それだけが、この青年の心の動きが書かれている箇所である。

好きな男に分身の術を使われてやられない女がいるだろうか。 

 

そして殺人をする。

それまでの心の経緯、実際の殺人の様子などの場面は一切無い。

淡々と邪魔なものを消していき、その結果を人ごとのような目で見つめるだけ。

 

doconokoさんが指摘するまで私はちょっと気がつかなかったが、やはりこれはホラーなのだねぇ。

ソレに気がつかず?とっぷりと浸っていた私はちょっと重症かも知れない。

ちょっと重症って何だ。