花梨とうの粒焼き

日々のちょこっとをちょこっと。

かくれんぼ

子供の頃、近所の友達とよく[かくれんぼ]をした。

缶蹴りは当時はまだ流行っていなかった。

流行っていなかったのか、それとも小学校低学年だった私たちには缶を蹴ったらまた逃げられるというようなちょっと複雑?なルールより単純な[かくれんぼ]で十分楽しめたから、なのかも知れない。

 

団地の前に広めの原っぱがあり、そこが格好のかくれんぼ場所だった。

 

鬼になった子が背中を向けて数をかぞえはじめる。

皆、一目散に走り出す。

さあ、何処に隠れよう。

 

右へ左へ駆け出しながらキョロキョロと必死に隠れ場所を探す。

 

しゃがめばすっぽりと小さな身体が隠れるだろう、あの茂みにしようか。

それとも。

ゴミを焼却する為の(その頃はそんな用途だったとは知らなかったけど)あのでっかい穴に蹲っていようか。

 

頭の回転は遅かったが(笑)足は速かった私は、もし見つかっても全速力で逃げれば鬼のタッチを振り切れるだろう、と目論んでいた。

 

で、案の定見つかっても捕まらない^^:b

鬼になった子はそのうち諦めて他の子を探しに行った。

捕まった子らは、最初はきゃあきゃあ言いながら、だけど次の瞬間にはもう鬼の仲間だ。 

じゃあ、この牢屋で大人しくしてなさい。と鬼に言われて、はーい(`∇´*)ノと何やら楽しそうなのだ。

 

私は。

私もいっそ捕まってあの中に入ろうか。。

いや、勝負は勝負なのだ!

みすみす自ら捕まりにいくわけにはいかぬ、という子供ながらのプライドで、私はいつまでもその場にしゃがんでいた。

実は心の何処かで見つけてタッチされることを望んでもいたんだろう。

 

記憶を辿るに、一回だけ(だったと思うけど^^;)途中で家に帰ってしまったことがある(笑)

いや、笑うどころじゃないか。 なんて卑怯な奴だ!

その後、突如消えた私は必死に探されたのか、それとも花梨ちゃんいないね~帰ったのかね?ぐらいのゆるい友達づきあいだったのかも^^;全然覚えてないけど。

 

母には何と言ったのか、「ただいま~」ぐらい言ってしれっとおやつを催促したのかも知れん。

たぶん。。

かくれんぼに飽きたというより、見つかりたくない、でも見つけて欲しい、そんなもやもやな感情が耐えられなくなったんだと思う。

友達失くすぞ!おいっ!・・と昔の自分に怒るところだが。

 

お腹空いた~今日のご飯なに? 

カレー。

やったー!

 

自己チューな私がただいま~と帰ったそこは、緊張の溶けた、追われることのない温かい隠れ場所だった。

 

 

 

 

 

 

 

昨日。

 

母と歳のそう変わらない老婦人の顔写真が新聞に載っていた。

 

底無しの哀しみと諦めがそのうつろな瞳に感じられた。

しかし僅かに残っているひと握りの希望を語っていた。

大丈夫、生きている。

まだ安否ははっきりしていないんだから。

 

アルジェリア人質事件の犠牲者となった息子の母親である。

 

 

 

息子は子供の頃、かくれんぼが好きだったと言う。

だから今でもどこかに隠れていてそのうちひょっこり出てくるんじゃないかと思っています、と母親は語っていた。

 

 

アルジェリアは世界でも有数の領土の広さだという。

しかし。

内戦の絶えない政情不安定の領地で卑劣なテロの前にあっては隠れる場所も逃げる場所も無い。

 

 

その写真が撮られた翌日、息子の遺体が確認された。

 

 

「25日に帰るから。」電話で母親に告げていた。

そしたら81歳の父親の誕生祝いをやろうと。

25日の今日。

息子は遺体で帰ってきた。

 

 

息を殺し、じっと隠れていたのだろうか。

見つかったら殺されるかもしれない圧倒的な恐怖の中で。

どんなに帰りたかっただろう。

温かい家へ。 父親の誕生日を祝う食卓に。

 

やっと 日本に帰ってきた息子の柩に取りすがり

「こっちだ、こっちだ、帰ってこい」

と泣き叫んでいたという。

息子の遺体を前にして、こっちだ、帰ってこい、と。

 

それは・・

死の世界に隠れ、帰ろうかどうしようかと迷っているだろう息子を見つけ出し、身体ごと、魂ごと呼び戻したい母親の、身を引き裂くような悲しみの叫びだ。

こっちだ、こっちだ、と。

 

 

私はだから今日は腹が立って腹が立ってしょうがない。

卑劣極まりないテロに対しては勿論、それより何かもっと大きなものに。

でも、何に怒っていいのかも分からない。

ただ、腹が立ってくやしくて悲しくて泣けて泣けてしょうがない。

 

 

 

 

亡くなったあの人は。。

 

かくれんぼは家でもやっていたんだろうか。

母親を驚かしたくて。

隠れていても見つかっても嬉しくて。

 

そして、二度と帰って来られなくなる未来などつゆほども疑わず。

 

「今日の晩御飯なぁに?」と。

無邪気に。